ロマンチックバカンス★ボラボラ

the 2nd night : W coquettish.


翌朝。
潮騒と心地の良い風に肌を擽られて、しかしどうやらそれだけでないのを微睡の中で感じて。ゆっくりと瞳を開いたリョーマは、 未だぼんやりとした視界の中で、見慣れた顔がこちらに手を伸ばしているのを確認する。

「……なに、してんの」

掠れた声。喉が渇いたな、とぼんやり思う。

「すっげー寝癖だぜ?顔面突っ伏して寝るからだ」

面白そうに髪を梳く指は、カールを描く筋に合わせてくるりと動く。
そう言えば昨晩は、どろどろのぐちゃぐちゃになりながら辛うじてシャワーを浴びて、髪を乾かすだとかいう以前に寝てしまった気がする。
そう言う跡部の髪も、所々跳ね上がっていた。彼も同じ様な状況で眠ったのだろう。
よく覚えていない。

「今、何時」
「案外まだ早いぜ。もう少し寝るか?」
「……ハラ減った」
「そーかよ」

笑いながら答える今朝の跡部は、随分と機嫌が良い。
人間、溜め込むとダメだね……と、自分がその要因になっている事は脇に置いて、リョーマは一人納得する。

シーツに包まったままうーん、と伸びをして、漸く体を起こす。
外は今日も快晴だ。セルリアンブルーやコバルトブルー、何段階にもおける青のグラデーションが延々と続く波間と、溶け合う様な空。
眩しいくらいの美しさに目を細めて、隣を見やる。

「そう言えば今日、不二先輩が何か…ツ、ツ?ツ何とかって所に行くって言ってなかった?」
「ツパイの事か?」
「あーそんな感じ。あれって何?」
「……昨夜不二が興奮気味に語ってたの、お前聞いて無かったのか」
「聞くと思うワケ」
「いや」
「楽しいトコ?」
「そうだな……お前には、楽しくないだろ。そして俺にも同じく」
「ふーん。じゃあ、良いよね」
「……何が」
「俺らは俺らで別行動でも」
「……その方が不二も喜びそうだがな」
「よし。じゃー決まりで」
「ちょっと良いか」
「却下」
「マジかよ!?」

跡部が再び、イラただしく髪をかき上げる。
言わずとも通じるのは良いのだが、適当に相手をされるのも癪だ。
こと……テニスにおいては。

同じく身を起こしていた跡部の肩に手を添え、力任せにその体を押し倒す。
スプリングの程良く効いたベッドに受け止められ、何を!と反論されるより前に腰に乗り上げるマウント・ポジション。

「嫌なワケ?」
「当たり前だろーが!なんでわざわざタヒチまで来てテニスだ!?」
「イイじゃん。敢えてテニスでしょ」
「昨日は興味無いって態度で、」
「今日は違うし。それとも何、アンタはその、ツパイだかスパイだか言うトコに行きたいの。先輩達にあてられながら?」
「……もっと他にもあるだろ」
「やだ」
「おい」
「やーだ」
「駄々こねるなお前幾つだ!」

何だか誤解されそうな体勢のまま、けれど本人達は大真面目に繰り広げる口論。
丁度その時、二人の泊まるヴィラのテラスにて、小さな物音がしたのだが、当然二人は気付かない。
リョーマの背後、大きく開け放たれたそこから、ひょっこり顔を出した侵入者にも、当然気付かない。
そしてその侵入者が、やっぱり大誤解をした挙句大慌てでテラスを去った際。

ドッボーーーーーンッ!!

「!?」
「何だ!?」

何かが水面に思い切り良く落ちる音を聞いて、ようやくそちらを向いた二人には、その正体が分かるはずも無かった。